卒業論文の書き方/論旨の展開、論文の構成、注の付け方
★【主張・論旨の展開】
卒業論文はあくまでも「論文」なのであって、単なる「レポート」や「概説」や「まとめ」ではない。
そこには必ず自分特有の主張(ストーリー)が必要である。
すでにかつて誰かがどこかで言ったことを卒論にしても、
それは単なる「まね」あるいは「二番煎じ」(もっとひどい場合は「盗作」)に過ぎない。
それは卒論ではなくて、ただの「レポート」や「概説」である。
卒論では、すでに誰かが言ったことを部分的あるいは全面的に批判(あるいは否定)し、
何らかの新しい主張をしなければならない。
あるいは研究史を調べて、まだ誰も言っていない新しいことを言う必要がある。
しかもむちゃくちゃなことを主張すればいいというものでもない。
自分の主張・解釈を論証、証明しなければならない。
結論(つまり自分の主張・解釈・観点)は、これまでの研究史から見て、
意外なものであるほどインパクトが強い。
平凡なことを結論にしても新鮮味がなく、おもしろくない。
また、論文の結論(つまり自分の主張)が、いかに自分のオリジナルで、
自分特有のものなのかということを、露骨ではなく、
しかし効果的に読み手にアプローチすることが非常に重要である。
●「主張の仕方」には、次のようないろいろなパターンがある。
・新発見パターン:いままでの研究史では誰も言っていないような主張・解釈を発見する。
これは正攻法(従来の説が「AはBだ」や「AはCだ」だとすれば、自分の結論は「AはDだ」)。
・批判パターン:いままでの研究史の中で、どれか特定のものを選んでそれを批判・攻撃する。
ただし批判・攻撃しただけではいけないので、そのかわりに自分なりの修正意見や答えや主張を出す必要がある。
・賛成・擁護パターン:いままでの研究史の中で、どれか特定のものを選んでそれに賛成する。
ただし他人の説にただ賛成するだけではわざわざ論文を書く意味がない。
「AはBだ」という従来の説を追認・賛成する場合、それは従来言われている意味でではなく、
これこれこういう意味でAはBなのだ、ということを主張し、
それが自分独特の観点なのだということを強調する。
つまりこの場合も、その賛成・擁護のための論証、証明、検証が自分独特のものでなければならない。
またそれが自分独特のものだということを強調する(「AはBだ」という説は正しい!
でもそれはこれこれこういう意味でなのだ、と主張)。
●「ストーリー」の作り方には以下のようなパターンがある。
①言葉や概念の意味を考えるもの
「古代ギリシアにおける『正義』観」
「プラトンの『国家』における《正義》について」
「中世フランスの騎士道における女性観について」
「デカルトの『方法序説』における《神》について」
②文化現象や事件などの原因、影響、意義、意味、意外な側面などを考える。
「ドイツ・ロマン主義文学がフランス文学に与えた影響について」
「ディズニーランド型遊園地の成立の経緯について-その意外な事実-」
「ヨーロッパにおけるパンクロックの意味について」
「ソ連邦の崩壊と西ヨーロッパへ与えた文化的意味について」
「フランス社会党政権の経済政策失敗の諸原因について」
「英仏百年戦争の勃発とその経済的要因について」
③何かと何かを比較する。
「イタリアとドイツの中世都市の比較」
「イギリスとドイツの教育制度の比較」
「日本とヨーロッパの住宅事情について」
「ギリシア神話と日本神話の比較研究」
「ドイツと日本の環境問題の取り組みの比較」
★【論文の構成】
論文の構成は、多くの場合およそ3~4章程度からなる。
ほとんどの学生は4章構成を取る。
必要に応じて冒頭に「はじめに」あるいは「序章」、そして最後に「結論」あるいは「おわりに」を加える。
章の数は多すぎても少なすぎてもいけない。
最低で3章、最大で4~5章。また必ず注(注釈)が必要。
4章構成の場合、1章あたりはおよそ3000字。
通常は、「はじめに、1章、2章、3章、4章、おわりに」という形を取る。
はじめに:自分が何をテーマとして取り上げるかを述べる。
またなぜそのテーマを取り上げるのか、そのテーマを取り上げるのには
どんな意義や意味があるのかを述べる。
また序章において、それからあとの各章の大体の筋道を述べておく人もいる。
しかし普通は序章で結論を言ってしまってはいけない。
およそ300~800字程度。
第1章:選んだテーマについての基本的知識、歴史、諸事情、背景、概略などを読み手にわかるように説明する。
第2章:そのテーマについての研究史、既存の議論の内容を紹介し、何が問題なのか、その問題点を指摘する。
そしてこの論文で何が問題となるのか、つまり自分でどんな設問を設定したのかを
述べる(この問題提起 は序章や第1章で行ってもよい)。
第3章:自分の主張・結論にもっていくための材料を出し、具体的にそれを組み立て、論証しようとする。
第4章:さらにそれを補強するような材料や論証を行い、結論の方へ持って行く。
おわりに:結論を簡潔にまとめ、その結論の意義を述べる。また今後の展望・課題にも触れる。
およそ400~1000字程度。
★【引用と注】
「注」とは、「自分の論文のこの部分は、誰それのなんという本の何ページを見ました」という情報を
明記したものである。
論文では、自分の主張や結論や意見を証明・論証するために、他人の文章を引用することが多い。
あるいはそのまま文章を引用するのではなくても、一部を書き換えるなどして利用する場合がある。
何の断りもなしに、一部分でも他人の書いたものを、さも自分の考えたことのようにして使用すると、
これは盗作になる。引用したり自分の主張の補強材料にしたりする時は、
「注」という形で必ずその出典を明記しなければならない。
逆に言えば、出典を明記しさえすれば、いくらでも他人の文章を使うことができるとも言える。
ただし、他人の文章からの引用の寄せ集めばかりで自分の意見や主張がないものは、論文としては評価されない。
それぞれのページの下に付けたものを「脚注」、本文の最後にまとめて記すものを「後注」という。
どちらの方式でも良い。「ワード」では選択できる。
◆《初出の文献》◆
①邦語著書・訳書の場合
著者(訳者)、『書名』(出版社、発行年)、引用ページ。※普通、本の場合は『』。
[例]藤田治彦『天体の図像学 西洋美術に描かれた宇宙』八坂書房、2006年、35頁。
[例]シモーヌ・ルー『中世パリの生活史』吉田春美訳、原書房、2004年、121頁。
②邦語論文の場合
論文著者、「論題」(『掲載雑誌名・紀要名』巻・号数、発行年月、所収)引用ページ。
※普通、論文の場合は「」。
[例]木村奈央・平野葉一「『ジェラシック・パーク』再考 -科学論からの検討」東海大学文学部紀要、
第92号、2009年、所収、13頁。
[例]マルコム・スコフィールド「ソクラテス以前の哲学者たち」、D.セドレー編『古代ギリシア・ローマの哲学』
内山勝利監訳、京都大学学術出版会、2009年、所収、80-81頁。
③欧文文献の場合
著作著者,書名,出版社,出版年,ページ.あるいは論文著者,“論題名”,雑誌名,巻,発行年,
ページ.
[例]John R. Gillis, The Prussian Bureaucracy in Crisis 1840-1860, Stanford, 1971, p.41.
[例]Edward Shorter, “Middle - Class Anxiety in the German Revolution of 1848",
Journal of Social History, No.3, 1969, pp.189-215.( pp. は複数ページを表す)
◆《既出文献を再び注記するとき》◆
④すぐ前の注に記されているものを再び注記する場合
邦文では「同書、頁」、欧文では「Ibid., p.58」
[例]注(1) 藤田治彦『天体の図像学 西洋美術に描かれた宇宙』八坂書房、2006年、35頁。
注(2) 同書、42頁。
[例](1) John R. Gillis, The Prussian Bureaucracy in Crisis 1840-1860, Stanford,
1971, p.41, pp.43-48.
(2) Ibid., pp.103-104.
⑤既出部分との間に別の文献が注記されている場合
邦文では著者名、「前掲書」(または「前掲論文」)、頁。
欧文では著者名,op. cit, p.76.(op. cit, が「前掲書、前掲論文」にあたる)
[例]注(1) シモーヌ・ルー『中世パリの生活史』吉田春美訳、原書房、2004年、121頁。
注(2) 柳沢治『ドイツ三月革命の研究』岩波書店、1974年、35頁。
注(3) シモーヌ・ルー、前掲書、132頁。
[例](1) John R. Gillis, The Prussian Bureaucracy in Crisis 1840-1860, Stanford,
1971, p.41, pp.43-48.
(2) J. H. Treble, Urban Poverty in Britain 1830-1914, Methuen, 1979,
p.162.
(3) John R. Gillis, op. cit, p.62.
★【まとめ/卒論を書くうえでのポイント】★
1.単なる概説はダメ。自分の主張や視点、解釈を打ち出そうと努力すること。
2.できるだけ多くの文献を使用すること。
言い換えれば、注にできるだけ多くの文献・資料を出せるように書くこと。
何か1冊か2冊の本だけを参考にしてそれをまとめただけ、というのは絶対にダメ。
3.できるだけ細かい議論に集中する方がよい。大ざっぱで大風呂敷な議論は避ける。
4.他人の学説や主張を紹介して、それらを批判したり論破したり、あるいはそこに自分なりの新しい観点や
視点、解釈、主張を付け加えるように努力すること。